僕らの人生に無駄なことなんてなにひとつないんだ

出落ち感しかないタイトルだけど、ただひたすらポエムを書こうと思う。

WordCamp 男木島 2020 online

去る9/6に2020年に日本で開催される(おそらく)唯一の WordCamp が行われた。

コロナ禍の影響で日本で初めてオンラインでの開催となった WordCamp 男木島 2020
たくさんの参加者、登壇者、スタッフが既にブログ記事を書いてくれていて、毎回『ブログを書くまでが WordCamp』と言われているので、僕もそこへ便乗しようと思う。

スタッフ参加の経緯

毎年あちこちの WordCamp にスタッフとして参加している僕は、当初リアルのイベントとして開催される想定で募集されたスタッフに「サポートスタッフ」として応募した。
これは「WordCamp の実行委員は地域のコミュニティで構成される」というコミュニティルールからできたもので、そもそも今年開催する予定だった WordCamp 東京 2020 にもスタッフ参加していた僕としては当初「サポートスタッフでもなにか手伝えることがあれば…」くらいのイメージでいた。

本来は地域のコミュニティから、とはいえ男木島の近郊でイベントをするのにスタッフ集めに苦慮していることは知っていたので、遠方からでも参加できる「サポートスタッフ」で、というのは想定内のことでもあった。

COVID-19 とオンライン開催

ところが、ご存知のとおりこのコロナ禍である。

男木島でのリアルな開催にこだわるのか、オンラインで開催するのか、あるいは延期・中止にするのかスタッフ間で何度もミーティングが繰り返され、最終的にオンライン開催が決定した。

『地域のイベントをオンラインで?』という意見は当然あって、事実、僕自身にも疑問に思う気持ちもなかったわけではない。

リアルのイベントに参加することは『わざわざその場所へ出向いてコミュニケーションすること』が含まれるし、参加者だけでなく「その土地の空気に触れる」ことも重要なポイントである。もちろんその土地の美味しいものが食べられるのも楽しみのひとつ。
前回2018年の WordCamp 男木島にスピーカーとして呼んでいただき、せっかくなので家族連れで男木島へ行けたことは本当に良い思い出になっている。

そういった体験も『込み』のリアルイベントであることは重々承知したうえで、スタッフみんなで『オンラインでの男木島らしさ』を目指すことになった。
難しい決断だったことは間違いないが、その選択が間違っていなかったことはもうみんな知っている。

オンライン開催決定後

僕の考える『男木島らしさ』と他の人が思うこととは違っていて当たり前で、当日までそこをすり合わせていくための期間だったようにも思う。
でも、男木島に行ったことがある人もそうでない人も、男木島(あるいは WordCamp 男木島)に対して持っているイメージはもともとあまりかけ離れたものではなかったようだ。

前述したように僕は幸いにも前回の WordCamp 男木島に参加することができたが、前回参加できていなくとも、今回の委員長である順子さんのきめ細かな気遣いや認識の共有をとおして、参加した全員が『男木島らしさ』をイメージすることができたのではないだろうか。
その求心力あってこその WordCamp 男木島 2020 online だったように感じている。

「委員長」というアイコン

WordCamp を開催するにあたって、必ず「実行委員長」がいる。僕が初めてスタッフとして参加した WordCamp 東京 2012の委員長は、奇しくもいま男木島在住の西川さんだった。

今回、終わった直後から「WordCamp 男木島 2020 すごく良かった!!」という声をたくさん聞いた。確かに僕もそう思うし、そのとおりだと思う。
では、何があったからそんなに「すごく良かった」んだろうか。

オンラインだったから?確かにオンラインなら遠方からでも気軽に参加できるし、メリットのひとつではあっただろう。
でもそれは単なる一つの要素でしかなく、僕らスタッフにしてみればこれまで開催したことがない手探りの状態と相まって蓋を開けるまでは不安要素しかなかったのが本音でもある。
一方で、こういった時代背景・状況にすごくフィットした形での開催だったことは間違いない。
遠方からも参加しやすく、参加型のワークショップやアンカンファレンスも盛りだくさん、YouTube の生放送で誰でも視聴参加でき、UDトークの字幕が英語翻訳併記で常時表示されているなど、ホスピタリティへの意識の高さは過去最高だったろう。

振り返ってみるとかれこれ足掛け8年10回以上の WordCamp にスタッフとして参加しているのだが、そのなかで今回の WordCamp 男木島がこれまでと違っていることでひとつ「これは!」と思い当たることがあったので、ちょっとそれについて触れておく。
これは全く僕の私見なのだが、『委員長(順子さん)の肩の力がいい具合に抜けていた』ことが成功の要因のひとつだったのではないだろうか。

慣れているならまだしも、初めてのスタッフ参加や初めて採用したコンテンツの運営となれば「まずなにをしたらいいか」から始まってわからないことだらけで途方に暮れてしまう。
そこを道筋だけ立てて『やりやすいようにやって』と任せるのはとても勇気が必要だ。
これは WordCamp に限らずプロジェクトを遂行する時には必ず起きることで、『最後の責任は持つからスタッフに自由にやってもらう』ことの難しさは誰もが感じることだろう。
例えば順子さんはそういうと「だって私じゃできないから」「わかんないし」と謙遜するだろうが、そのおかげでスタッフみんながどれだけ自由にのびのびと動いていたことか。
『結果オーライ』と言ってしまえばそれまでだし、終わった後だから言えることといえばそうなのかもしれない。ただ、実際にこの WordCamp 男木島で何人もの若者が大化けする現場に居合わせることができた。

例えば香港在住のちあきさんは、住んでいるところの違いからくるハンデや他のイベントスタッフとの掛け持ちのプレッシャーをものともせず、ランチタイムセッションの司会を見事にやり遂げた。
一緒に運営している「WPZoomUP」のスタッフミーティングでは「司会は苦手だからできれば担当に振らないで欲しい」と言っていたにもかかわらず、だ。

これを大化けと言わずなんというのか。

もちろんちあきさんの例はたくさんあったうちのひとつの事例に過ぎず、他にもりんくんはじめ大勢のルーキーが今回の WordCamp 男木島のスタッフの経験をとおしてその才能を開花させたのはスタッフの中では周知の事実だ。

ひとつのプロジェクトをとおしてスタッフがこんなに成長できるイベントをその内側から見られるなんて、どれだけ稀有な経験だろうか。

でも、僕はそれが WordCamp だと知っているので驚くことはない。
WordCamp に関わるすべての人が、それぞれこれまでの経験や知識を運営に注ぎ込んで、みんなが成長していく。それは Web のことだけに限った話ではない。
WordCamp はそんなひとりひとりの努力の積み重ねでできている。

それを『引き出した』のは間違いなく WordCamp 男木島 2020のアイコンたる「委員長」だ。
スタッフひとりひとりがその責任においてできることをできる限りやる、できない時はすぐフィードバックする。
ちょっと手が空いたらオーバーワークになっていたり止まってしまっているタスクでできそうなところにぱっと手を挙げる。
これをすべての人達が日常生活からできたら、世界はどれだけ平和だろうか。

こう言ってしまうと「結局属人性が高いだけじゃないか」となりそうだが、そうではない。
なにせ WordCamp はひとりだけでは開催できないのだから。
これは「属人性が高い」のではなくて、「各自が自分のできることを知っている」からできたことだろう。

かく言う自分はといえば、途中で体調を崩して音信不通になったりラジオ体操で息切れしたり、当日もあちこちでポンコツっぷりを遺憾なく発揮してしまい、もうそろそろ年寄りは引退しようと思うことしきりだった。

では委員長は力を抜いてさえいればいいのか

断じてそうではない。
あらゆることに気を配り、スタッフひとりひとりのメンタルをケアし、足りないところは率先して動く。
まさに一大プロジェクトである WordCamp のプロジェクトリーダーたる委員長が休めるタイミングなどないだろう。

これまでの歴代すべての WordCamp の委員長には頭が下がるし、本当に感謝しかない。
僕みたいな面倒なスタッフがいても笑顔でやり過ごし、その気苦労をおくびにも出さずににこにこしながら当日までスタッフを鼓舞していく。
そんな事が努力なしにできる人がどれだけいるだろう。
きっとプロジェクトリーダーとしての「委員長」も、その準備をとおして「委員長になっていく」んだ。

今回順子さんの求心力と本田さん直子さん古里さんに代表される(いやもっとほかにもたくさんいるけど)コアメンバーの八面六臂の無双ぶり、ルーキーの成長すべてが重なっての結果なので、個人的には奇跡の現場に立ち会えた思いでいる。
本当なら忘れないうちにそのすべてをひとつずつ挙げて称賛したいのだが、いつまでも書き終わらなくなってしまうのでこれは個別にそれぞれお伝えしようと思う。

自分のできることをできる範囲で

スタッフ全員がそれぞれのできることをできるだけやる、そんな当たり前のようなことを当たり前にやることの難しさ。
相手を気遣い手を差し伸べる優しさ。
それらが相まって WordCamp 男木島が成功に導かれたんだと思うけれど、それを可能にしたのはなんだろうとずっと考えていた。
こうやって書いてみて、『ひとりひとりがこれまでの経験を出来るだけいまここに活かす』という至極当然な答えに行き着いた。

もちろんこれはひとつの要因に過ぎず、これだけあればなんでもうまくいく、なんていうほど人生は甘くない。
とはいえ、「適材適所」とでもいうべきなのか、委員長を筆頭にスタッフそれぞれが自分のできることをできる範囲で、ただし全力でやったらここまでのことができるというのは本当に奇跡のようだ。

チャンスを掴むための準備はどこにでもある

その一方で、一昨年の WordCamp 男木島のあと、一部のスタッフを中心にオンラインの勉強会『WPZoomUP』が立ち上がったことをご存知の方もおいでだろう。
僕も機会があってそこに参加しているが、参加した時も、そして今年の5月までは WordCamp 男木島 2020がオンラインで開催されるなんて考えてもいなかったし、もちろんそのためにオンラインで WPZoomUP を立ち上げたなんてこともなかった(はずだ)。

ところが時世の影響もあって WordCamp 男木島 2020がオンラインで開催されるとなった時に、僕らには既にちょっとだけオンラインイベントの運営に関する知見があった。
その知見をどこまで活かせたかは測れないが、その知見を共有したおかげでうまく進められたところはいくつもあっただろう。
たまたまではあったけれど、僕らは前回の WordCamp 男木島が終わったと同時に、既に今回の WordCamp 男木島オンラインの準備を始めていたのだ。

他にも、例えば今回の動画配信戸田くんシマさん一平さんといった錚々たるプロと言っていいメンバーがその持てる力をフルに使ってくれたおかげで、ものすごくクオリティの高いものが出来上がった。
彼らも参加した当初はこういった形での動画配信は想定していなかっただろう。
ただ、彼らが彼らの範囲でできることをフルに活かしてくれた結果出来上がったものであることに間違いない。

僕らは、彼らが作り出すものを安心して観ていればよかった。

ブログSNSの更新だってそうだ。毎日毎日どんどん情報が更新されて、インタビュー動画 Instagram まで。こんなに怒涛の勢いで情報が発信されていた裏側では広報班の地道な活動があってこそ、だ。なんと新聞やラジオの取材まで…!

ひとつひとつやっていることは小さな事かもしれない。
だが、これがすべてのスタッフが同時に並行して自主的に動いているとしたらどうだろうか。そんなプロジェクトがうまくいかない理由がどこにあるだろうか。

さらにこれはスタッフだけではない。登壇者や当日ボランティアで参加してくださったすべての人に当てはまる。
どの枠の内容も練り上げられたもので、グラレポもUDトークの字幕編集もありえないほどの完成度の高さだった。
これらはきっと今後公式サイトのブログ記事に裏話と合わせて紹介されるだろう(広報班の皆さん、もう少しお願いね!

その結果に至る要因のひとつが『これまでの経験を出来るだけいまここに活かす』だったとしても、あながち間違いではないのではないだろうか。

ここに名前が上がっていなくても、僕が直接見ていなくても、今回の WordCamp 男木島のスタッフ全員が全力でやりきったと自信をもって言える。
素晴らしいイベントを本当にありがとう。

ポンコツだった僕自身も、いままで参加してきた WordCamp やたくさんのイベントから得た知見があって、それを何かしらでも活かせたのではないかと思いたい。

そう、だから僕らの人生に無駄なことなんてなにひとつないんだ。

僕が某ハンバーガーチェーンでバイトに明け暮れていた時の経験も、バイク屋で寝る間もなく働いていた時の経験も、きっといまに活きているんだ。

どこでどんなふうにその経験を活かせるか、それはわからないしそのチャンスを逃してしまったら一生活かすことはないかもしれない。
でもその機会が来ることを信じて、できる時がきたらそのチャンスを逃さず、自分の持てる力をフルに使うんだ。

WordCamp は、自分の経験をすべて注ぐに値する機会だと思っている。
WordCamp のスタッフに参加してもお金は1円も儲からないし、有名になれるわけでもない。
でも、その気さえあればお金に換えられない経験をいくらでも得られる場であることは間違いない。

だから、もしかしたら「奇跡」なんかじゃなくて「必然」だったのかもしれない。

きっと、WordCamp に一度でもスタッフで参加したことがある人ならば少なからずそこは同意できるはずだ。
そして、それを次の機会に活かすのは自分自身だ。

自分の明日は誰かに作ってもらうものではなく、結局自分で作っていくしかない。
だからいつか必ず訪れるチャンスに向けて、きっとまた僕は WordCamp にスタッフで参加するだろう。